発達障害と記憶力の良さ悪さ

発達障害と記憶力の良さ悪さ

一般的に発達障害者の記憶力というと「記憶力が悪い」「物事を覚えれない」というイメージが強いと思います。これは確かに間違いではなく、複雑なことを覚えるのが苦手であったり、新しいことがなかなか記憶されないという事に悩んでいる場合も多いです。

また、発達障害の中でも知的障害を伴う自閉症の子の場合は、知的は発達の面から物事を記憶することが難しい場合もあります。

逆に発達障害の子の中には驚異的な記憶力を持った子もいたり、逆になかなか新しいことを覚えることができなかったり、物事をすぐに忘れてしまう子もいます。

では発達障害の子の記憶力は実際どのようなものなのでしょうか。

発達障害の記憶力の悪さ

発達障害の人は様々な理由から記憶力や物覚えが難しい傾向にあります。まずは物事を記憶することの困難さの理由についてです。

脳機能の影響

発達障害の原因は今も不明ですが、「先天的な脳機能の問題」が大きな原因と考えられています。このため、脳の機能の影響や、健常者と脳の使い方、情報の受け取りかた、物の覚え方なども異なっているようで、これらの違いが記憶力に影響していると考えられています。

ワーキングメモリの弱さ

発達障害の子は全般的にワーキングメモリが弱いといわれています。ワーキングメモリとは一時的な行動や記憶をするために用いられる記憶領域です。

ワーキングメモリの例としては、頭の中で暗算する際に一時的に数字を覚えている事や、電話の内容をメモする際にメモに書き出すまでの間相手の言葉を記憶する事などがあります。

発達障害の子は健常児に比べてワーキングメモリで覚えられる個数や時間が少ないとされ、これらが記憶力にも影響していると考えられます。

感覚や情報の受け取りの違い

発達障害の人は外部からの感覚や情報の受け取り方が、健常者と異なっているといわれています。

感覚がとても敏感になる感覚過敏であると感覚や情報を過剰に受け取ってしまいますし、逆に感覚がとても鈍感となる感覚鈍磨の特徴があると感覚や情報を受け取れない可能性があります。

受けた感覚や情報の伝達が脳までスムーズに達しないこともあるようで、正しい情報が脳に届かないため記憶されるのが難しい理由のひとつとなる事があります。

記憶を引き出せない

脳では過去の記憶や思い出などを覚えていても、それをスムーズに引き出すことが出来ないため、結果として記憶力が悪いと思われていることもあります。

発達障害の人は行動を行うにも、頭の中で何度も情報を整理したり、動きをシュミレーションすることがあり、ひとつの事を行うのにも非常に時間がかかる事がありあます。このような場合は、スムーズに回答を出したり行動に移すまでにタイムロスが発生するので周囲から見ると記憶力が悪い、反応が遅いと思われる事があります。

興味がわかない

発達障害の子は好きなことや興味を示すものには、自分から積極的に行ったり集中する特徴があり、記憶に関してもこの傾向があります。逆に興味がわかなかったり自分に必要が無いことだと思ってしまうと、記憶する必要を感じなかったり、覚えてもすぐに忘れてしまうということがあります。

人の名前も同様で、自分にとって役に立つ人や楽しいことを提供してくれる人の名前はすぐに覚えてくれますが、毎日会っていても自分にとって必要の無い人の名前はまったく覚えることができない事も多いです。

記憶方法の違い

健常者では物事を記憶する際に、記憶に重みや優先順位をつけ、重要なことは忘れないようにしたり、優先的なものは先に行おうとすることができます。

発達障害の人は記憶に重みや優先順位を付けることが苦手で、さらに、記憶も新しいものの方が重要だと認識してしまう傾向にあります。

そのため、作業などを行っていても途中で新しい事を記憶してしまうと、そちらの方が重要だと勘違いして優先的に行ってしまったり、場合によっては新しい記憶で上書きしてしまい過去の記憶を忘れてしまうこともあります。

発達障害の記憶力の良さ

発達障害の子は、時折ずば抜けた記憶力の良さを発揮することがあります。

一度見た風景をすべて覚えており、後日に見た風景と寸分の狂いも無い絵を書き上げる能力を持った人や、一度読んだ本はすべて覚えている人、一度聞いた電話番号や生年月日は忘れないといった人もいます。

すべての発達障害の子に特別な記憶力が有るわけでは無いですが、発達障害の特徴として興味のある物事に対してはとても集中して取り組み、大人顔負けの記憶力を発揮することがあります。

比較的良く見られるものには「鉄道の路線や電車の種類」「国旗や地名」「電話番号などの数字」「生年月日や年号」「企業の名称やロゴマーク」「動物や魚や昆虫」「芸能人やアイドル」「アニメやゲーム」などがあり、これらに興味を持つと脅威の記憶力を発揮し、種類や特徴や名前などを事細かに覚えることがあります。

また、テレビやゲーム機、スマートフォンやタブレットなどに興味がある子では、使い方を教えていなくても、親や兄弟が扱っている様子を見て覚えたり、自分で試行錯誤しながら使い方を覚えてしまうということもあります。

様々な動画を見ることができるYouTubeなどの扱い方も同様で、文字をまったく理解していない子でも、検索履歴や関連動画を辿り、自分の好きな動画にたどり着いて見ているという子もいます。

記憶と内容の理解

発達障害の子が物事を記憶していても、内容を丸ごとコピーしているだけの事が多いので、実際の意味までは理解していなかったり、応用が利かなかったり、ちょっとした変更ができない事もあります。

応用が利かないと同じような内容でもやり方が少しでも違うと『別のことだ』と判断してしまい挑戦するのが難しくなったり、やったことが無い新しい事だと思って不安やストレスを感じることもあります。

本の中身を丸ごと記憶している子の場合、学校の授業でも教科書に記載されていることを覚えているのでテストの点は良いのですが、実際に内容が理解できていないため応用や活用ができなかったり、社会に出てから困ってしまうということもあります。

耳からの情報を覚える事が得意な子の場合、CMやアニメのセリフを覚えて話すこともあります。しかし言葉として話していても、音として覚えているだけで意味はわからなかったり、文や単語としては全く理解していない事が多いので注意が必要です。

サヴァン症候群

特異的な記憶力などの特殊能力を持った知的障害や発達障害の人をサヴァン症候群と呼ぶことがあります。

有名なサヴァン症候群の人物には貼り絵で有名な山下清氏や、優れた鉄道絵画を描く福島尚氏、数千冊もの書物の内容を記憶し映画「レインマン」のモデルにもなったキム・ピーク氏などがいます。

サヴァン症候群には、一度聴いた曲を同じように楽器で演奏できる能力を持った人、任意の日付の曜日を瞬時に答えられる人、瞬時に膨大な数字の計算をできる人、円周率や素数などを暗記している人など様々な能力を持った人がいます。

記憶の良さのデメリット

この優れた記憶力がデメリットになることもあり、嫌な経験や怖い思いをした記憶も残り、なかなか消えずに本人を困らせることがあります。

特に嫌な記憶は出来事全体よりも、嫌だと感じた一瞬だけが思い出されるようで、似たような状況に陥るとそのときの記憶がフラッシュバックとして思い出されパニックにつながることもあります。

このように記憶の良さも本人の中では苦痛となってしまい、場合によっては二次障害の原因ともなります。

まとめ

発達障害の子はその特性から、物事を覚えることが困難であったり、覚えたことを忘れてしまったり、引き出すために時間がかかる事があります。

記憶の良い悪いは人により様々なで、全般的な物事に対しては覚えるのが難しくても、興味分野に関しては非常に優れた記憶力を発揮することがあります。また、嫌な記憶は残りやすくちょっとしたタイミングで思い出されることもあるので注意が必要です。

記憶力に関しては人それぞれなので、記憶力が弱い子にはそれを高めるトレーニングや、メモを取るなどの対処方法を教えてあげましょう。記憶力が優れている子にはその分野を伸ばすとともに、興味の幅を広げてあげ他の分野にも応用できるようにフォローしてあげましょう。